C4Dマイクロチップ電気泳動の原理および使用方法
非接触電導度検出器(C4D)を用いたマイクロチップ電気泳動法(MCE)の手順
Contents
はじめに
このアプリケーションノートでは、静電結合型非接触電気 電導度検出器(C4D)を使ったマイクロチップ電気泳動法(MCE-C4D)の操作手順をステップ-バイ-ステップで説明します。 eDAQ マイクロチップ電気泳動システムには、C4D データシステム、C4D マイクロチッププラットフォーム、高電圧シーケンサー、C4D の電極を埋め込んだマイクロチップ、カチオン及びアニオンを含む標準液キットが含まれています。
図 1 は使用するマイクロチップの構造を示した写真です。
必要な装置
- ER255 と ER455 マイクロチップ電気泳動システムの内訳:
- ER225 C4D データシステム
- ET225 Micronit プラットフォーム
- ER230 高電圧シーケンサー (1または2台)
- ET145-4 CE マイクロチップ (45 mm) キット
- PowerChrom 及び Sequencer ソフトウェア
- EC20 標準液キット:
- BGE = 0.5M 酢酸
- サンプル = 1mM の LiCl、KNO3、Na2SO4 を含む水溶液
- 20 ~ 200 µL 用ピペット1本、ピペットチップ
- 5 mL シリンジ 1本
- 脱イオン水
- 糸くずの出ないティシュペーパ
フローティングインジェクション
ここではフローティングインジェクション法によるマイクロチップ電気泳動の操作手順を紹介します。この種のインジェクションでは、チップにある4つのリザーバの内、2箇所に電圧を設定します。従ってこの方法では、1台の高電圧シーケンサを使います。 フローティングインジェクションを行う間は、チップの両端(リザーバ 1 と 3 の間)に 1000 V かけます。チップのチャネル(流路)はダブル-T字の構造で、この電位がチャネルの僅かな間隙全体に及びます。分離工程ではチップに沿って(リザーバ2と4) 1000 V かかることになります。この結果、サンプルは検出器とリザーバ4の方に移動し、それにつれてイオンが分離します。 ゲートインジェクション法では後述するように、4か所全てのリザーバで電圧のコントローラが必要(従って2台の高電圧シーケンサーが必要)となります。
必要な装置
eDAQ マイクロチップ電気泳動キットには多くのコンポーネントとケーブルが含まれています。次の手順に従ってください。
- まず、パッキングリストに記載した品目が全て揃っているか確認してください。
- コンピュータに Sequencer ソフトウェアと PowerChrom ソフトウェアをインストールします。インストールしたバージョンが最新バージョンなのか edaq.com/software_dnloads.html で確認してください。
- 操作マニュアルに従って、高電圧シーケンサ(HVS)をUSB ケーブルでコンピュータに接続します。但し電源は未だ入れないでください
- 同様に、C4Dデータシステムをマニュアルに従いUSBケーブルでコンピュータにつなぎます。電源は入れない事。
- HDMI ケーブルを使って、チッププラットフォームをC4Dデータシステムにつなぎます。
- 表1に従って、カラーで識別した高電圧ケーブルを使ってチッププラットフォームをHVSに接続します。
- 黒色の HVS ケーブルは2本あるますので必ず正しい方をつないでください。45 mm マイクロチップを使っている場合は、プラットフォーム中央部の黒色ケーブルを使います。
- チッププラットフォームと HVS 間はインターロックケーブルで接続します。注:カバープレートがプラットフォームから持ち上がっている場合は、インターロックがかかり電源は入りません。絶対にインターロックケーブルを迂回させないこと。
- チップホルダーは必ずアースを取り、シグナルのノイズを抑えます。緑のグランドケーブルを使ってチッププラットフォームのグランドコネクターと C4D データシステム後部の緑のコネクターとをつなぎます。同様に、もう一本のグランドケーブルで C4D システムの緑のコネクターと HVS 後部の緑のコネクターとをつなぎます。
- HVS からPowerChrom ソフトウェアにトリガーを掛けて記録を開始させることができます。赤と黒のトリガーケーブルを使って、HVS 後部の “CTL1 +” と C4D データシステムの “TRIG +” とをつなぎ、HVS の “CTL1 –” と C4D の “TRIG –” をつなぎます。 Video 2 参照。
- HVS の電源を入れます。初めて使う場合はドライバーがインストールされます。
- Sequencer ソフトウェアを開き、画面上の<Online>ボタンをクリックしてHVSに接続できるのを確認します。これには <File> メニューから<Preferences>を選び 対応するHVSの<Connection Serial Port>を設定します。Serial Port Monitorソフトウェア(eDAQ website から入手可能)を使えばどのCOMポートがHVSに接続しているのかが判ります。Sequencerソフトウェア画面をリサイズして画面の左側に移動します。
- PowerChromソフトウェアを開き、Easy Access ウィンドウが表示するのを確認し装置の設定を行います(Hardware Unavailableウィンドウが表示する時はソフトウェアが装置を認識していませんので、操作マニュアルを参照して問題を解決してください)。PowerChromソフトウェア画面をリサイズして画面の右側に移動します。
- 下記に従って、ソフトウェア上でトリガーコマンドを設定します:
- Sequencerソフトウェア: <File>メニューの<Preferences>から<Contact Closure>を選ぶ。
- PowerChromソフトウェア: in the menu <Edit>メニューの<Preferences>から<Digital IO Settings>で<External Trigger Mode>の<Voltage Level (TTL)>を選択。
- PowerChromソフトウェア:Manual Sampling画面で<Inject Settings>から<Wait for Inject>を選ぶ。
- Sequencerソフトウェア:後の手順になりますが、シークエンスをセッティングする時に<Digital Output 1>では<High/Closed>を選ぶことを忘れないでください。これがトリガーコマンドになります。同様に最終ステップでは<Low/Open>にするのを忘れない様に (分離工程の終了後)。
- 手袋を使ってチップ・プラットフォームに未使用のマイクロチップを置きます。四箇所の円形C4Dコネクターがプラットフォームの4個のピンの上に当たるようにチップを取り付けます。
- リザーバ―にカバーを載せます。
- カバーの下のO-リングが定位置にあり乾いているのを確認します。必要ならティッシュで拭いて乾かしてください。
- ネジを締め過ぎないように;指で回して締まる程度で十分です。
- リザーバのカバーは水平に、プラットフォームの底面と平行にします。
- カバープレートをプラットフォームの上に載せます。必要なら高電圧ケーブルを動かしてプラットフォームの底面と平行にします。
Sequencer ソフトウェア
- Sequencerソフトウェアを開きOnlineモードにします。
- 陽イオン分離測定には表2を、陰イオンの分離測定には表3に従ってシークンスセットアップします。何れもFloating Injection法を用います。
PowerChromソフトウェアと溶液の充填
- PowerChrom ソフトウェアを開く
- Easy Accessウィンドウの<Manual Run>をクリック
- Manual Sampling ウィンドウの<Inject Settings>をクリックし、<Wait for Inject>を選び <OK> (<Start>を選ぶと直ちに記録を開始)
- Manual Sampling ウィンドウで Stop sampling 2.00 min after Injectに設定
- <Hardware Settings>をクリックし、以下を設定しOK:
- Sampling speed = 100/s
- Channel 1: Input = Input 1, Range = 50 mV
- Channel 2: Input = Off
- <C4D Amplifier>をクリックし以下を設定:
- Low Pass = 5 Hz
- Offsetで <Zero>をクリック
- サンプル1 mM をイオン交換水で100 µM に希釈
- リザーバ4にBQEを50 µL分注する。毛細管現象により1秒足らずでチャネルに溶液が充填されます。充填するのをC4Dシグナルの電導度の変化で確認します。
- リーザーバに溶液を分注する間はピペットを垂直に保ったままの状態にします。
- この時ピペットをリザーバの傾斜壁に軽く当てながら溶液を分注してください。リザーバの底に気泡が入るのを防ぐ為です。
- BGEやサンプルを分注する時とリザーバから溶液を取り除く際はピペットチップを交換してください。溶液のコンタミを防ぐ為です。
- PowerChromソフトウェア:
- 予めC4Dの設定条件が判っている時は、C4DのAmplifierウィンドウで<Frequency>、<Amplitude>、<Headstage Gain>を設定するか、
- 設定条件が不確かな場合は、C4D Profilerを活用して至適な設定条件を求めます。詳細は該当するアプリケーションを参照します。Profilerを使って設定条件を求める場合はチャネルにBGEを充填して行って下さい。
- 陽イオンの分離測定には、リザーバ2と3にBGEを 50 µL 注入し、リザーバ1にはサンプル液を 50 µL 分注
- 陰イオンの分離測定には、リザーバ2にBGEを 50 µL 注入し、リザーバ1と3にはサンプル液を 50 µL 分注
- 各リザーバに等量入っている事を目視で確認
- ホルダーの上にカバープレートを置く
- Offsetボックスで<zero>をクリック
- ここで Manual Samplingウィンドウに戻り、入力の<Range>を設定します a
- HVS前面の赤ボタンを押し装置を起動させます。
- これで測定の準備がせきました。PowerChrom ソフトウェアから“Start”で始めます。
- Sequencerソフトウェアで<Run>をクリックしHVS シーケンスをスタート始します。PowerChrom ソフトウェアにトリガーがかかり記録を開始します。
カチオンの測定
カチオン標準液の電気泳動図です。Peakmaster ソフトウェアで予測した様に、三種類のネガティブピークが得られました。 ピークがネガティブ(負の値)なのは、この三種類の陽イオン Li+、Na+、K+ がバクグランド電解液中では H+ のカチオンよりも電導度が低く作用する為です。PowerChromソフトウェアの<Hardware Settings>からC4D Amplifierウィンドウで<Invert>を選べばポジティブピークが表示します。 図4のデータはサンプルインジェクッションタイムが20秒の設定ですが、30秒か40秒に増やせばピークは大きくなりますがピークの分離は劣化します。
アニオンの測定
図5は1mMのアニオンの電気泳動図です。この濃度ではシステムがオーバロードしてしまい、その結果一つの大きな未分化ピークしか記録できていません。
アニオンの測定では標準液をイオン交換水で100 µM に希釈する必要があります。図6は希釈した測定例です。Peakmasterソフトウェアで二つのピークが確認できますが、 HSO4- と NO3- は一つの未分化ピークとなっています。この条件でのアニオンの分離測定ではEOFのピークは生じません。EOFはリザーバ2の方向に移動しますので検出器には捉えられません。
サンプル液を交換する手順
- HVSの電源を切る
- プラットフォームからカバープレートを外す
- ピペットでサンプルリザーバからサンプル液を取り除く
- イオン交換水でサンプルリザーバを数回洗い流す
- サンプルリザーバに別のサンプル液 50 µL をピペットで分注する.
- カバープレートを戻す
- HVSの電源を入れる
- 新しいサンプル液をの測定を始める
マイクロチップを取り外す手順
- DHVSの電源を切る
- プラットフォームからカバープレートを外す
- ピペットで各リザーバから溶液を取り除く
- マイクロチップのチャネルに塩が析出しないように、ピペットで各リザーバの中をイオン交換水で十分に洗い流す
- リザーバ4にシリンジを差し込み、シリンジを10秒ほど軽く押して加圧しフラッシングする
- ピペットで各リザーバからイオン交換水を抜き取る
- リザーバカバーを外し、カバー下のO-リングをティッシュで拭いて湿気を取る
- マイクロチップを取り外す
注意
予めBGE 溶液やサンプル液をフィルター処理しておくのも必要です。狭いチップチャネルに微粒子が混入するのを防ぎます。シリンジの先端に装着できるタイプのフィルター をが便利です。
同様に、BGE 溶液やサンプル液を超音波槽で処理し脱気しておきましょう。 溶液中に溶存エアーがあるとチャネル内に気泡を生む要因となり、高電圧をかけると放電を起こしチャネル内の温度が上がってチップのチャネルが損傷する恐れがあります。
チップのチャネルに流れる電流を観測しながら測定メソードを見つけるのが賢明です。 Sequencerソフトウェアで電流値が表示しますので、HVS本体後部のモニター端子からシグナルを記録することができます。電流がゼロになったりノイズが多い場合はチャネルに気泡が生じた疑いがあります。
微粒子によってチップチャネルの流路が塞がれてしまった場合は、チャネルの一方にシリンジを使って空気で加圧するか、軽く減圧することで取り除くことができるかも知れません。 ティッシュペーパを使う際は糸くずの出ないタイプを使ってください。
連続測定中に回を追うごとに次第にピークが小さくなってくる場合は、チャネルの先頭部に面する同じリザーバ内イオンを検出している恐れがありますので、ピペットを使ってサンプル液を吸引しながら出し入れを数回繰り返してリザーバ内のサンプル液を混ぜ合わせます。
測定中にベースラインのドリフトが著しい時は、シリンジを使ってチップをフラッシュすると効果的です。リザーバの出口にシリンジをセットし 、軽くシリンジを押しながら数秒間加圧状態を保ちます。
連続測定する時は途中で幾度かオフセットを変更したり測定レンジを変える必要はありますが、実験中はキャリブレーションやサンプル測定が全て終了する迄は < Frequency >、< Amplitude >、< Headstage Gain > の設定は変更すべきではありません。
チップの洗浄と保存
チッププラットフォームにセットしたままチップを洗い流すことは可能です。シリンジのノズルをリザーバカバーのホールの斜面に当て、プランジャーを軽く押し加圧しながらチップ内の溶液を押し出して洗い流します。
またはプラットフォームからチップを外し、ノズルにゴム製のO-リングを取り付けたシリンジを用意てチップチャネルを洗います。このシリンジはノズルの部分を付け根だけ残して切り取り、接着剤を塗ってO-リングを取り付けて作ります。次に、リザーバ上のチップのガラス表面の上にO-リングを当てます。プランジャーを軽く押しながらチップチャネル内の水や空気を押し出します。
良好な測定結果を得る為にも使用した後のチップの保守管理には細心の注意を払って保管します。チップのガラス表面にも汚れが付かない様に注意します。チップメーカの取説書に従って保管してください。
Gated Injection
はじめに
これまでの説明は Floating Injection 法によるサンプル液注入でした。この方法ではインジェクション中は泳動チャネル端末のリザーバ(リザーバ2,4)には高電圧シーケンサは接続していませんでした。 これとは異なりここで紹介する Gated Injection と呼ばれる方法では、ER430 高電圧シーケンサを使って4箇所全てのリザーバにかける電圧をコントロールします。
手順
ハードウェアのセットアップはFloating Injectionと同じですが、チッププラトフォームは表4に従ってHVSと接続する必要があります。
カチオンの分離測定ではSequencerソフトウェアで表5に従ってシーケンスを設定します。アニオンの場合はかける電圧の極性を反転させますので、表5に示す電圧値は全て負(-)に設定します。
シーケンスでは接続したHVSに適合するトリガーコマンドを設定します。例えばHVS本体にトリガーケーブルをつないだ場合はDigital Out欄には“High/Closed”コマンドを入力します。
サンプル液をイオン交換水100 µM に希釈します。リザーバ 3、4にBGEを50 µL分注し、リザーバ1、2には50 µLのサンプル液を注入します。
これ以降は同じ手順で、PowerChrom と Sequencerソフトウェアをスタートします。
サンプル液とBGEのフロー
Initial/separationの工程(図7参照)では、リザーバ2からリザーバ1へサンプルが定速で流れ(フロー)ます。その間リザーバ3からリザーバ4へはBGEがフローします。同時にリザーバ3からリザーバ1にはBGEがフローしますが、サンプルは分離チャネルの外に留まっています。
45秒後、インジェクション工程(図8参照)が始まります。リザーバ3の電圧が1000Vから400Vに一瞬で下がります。この影響でサンプルは分離チャネル内に差し込まれます。
リザーバ3の電圧が元の電圧に戻ると、サンプルへの差し込みが外れてリザーバ4と検出器の方向へ分離移動し始めます。
Gated Injectionsの注意点
インジェクションするサンプル量はインジェクションタイムの長さに比例します。分離チャネルに押し出されるサンプルインジェクション量はエレクトロマイグレーションとEOF(EOF電気浸透流がエレクトロマイグレーションと同方向であれば)との相乗効果で働きます。このタイプのインジェクションには導電学的なバイアスがかかるかも知れません:遅い移動成分に比べ速い移動成分がより多く分離チャネル内に誘導されます。段々小さくなったりします。何度もチップを使うことでも同様な現象が見られます。