非接触電導度検出法による微生物増殖のモニタリング

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図 1. 8本のバクテリア培養管を各C4Dヘッドステージの中に挿入します

要約

非接触電導度検出法(C4D)を用いて多検体に対応する微生物増殖センサー(EBGS)を開発しました。8本のディスポーザブルのNMR用チューブに大腸菌(E. coli)の培養サンプルを入れ非接触電導度検出器を用いてモニターし、電導度を培養時間に対してプロットすることにより高解像度の増殖曲線が得られました。ここでの大腸菌の増殖速度の結果は、光学的濃度計や接触式電導度法で補助的な装置も必要なく、付加的な化学薬品や生体材料も使いません。従いましてこの測定法は簡単な操作でしかも精度・再現性も高く、小型で多用途に活用できコストオパフォーマンスに優れた測定器です。


図 2. バクテリアの増殖に伴い増加する電導度をC4Dでモニター

はじめに

バクテリアの増殖の性質を理解することは、医学研究、臨床診断、食品の安全性、発酵産業や環境のモニタリングなど多くの分野において大変重要な意義を持っています。これには増殖速度、共存する化学物質のストレス効果や毒性の影響、生理活性などが含まれます。増殖ベースの測定は、抗菌感受性試験の「ゴールドスタンダード」メソッドであり、遺伝子レベルでの生命の進化を研究するためにも用いられています。

バクテリアの増殖を特性付けるための様々な技術が確立されています。プレートカウント法およびPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は正確で再現性がありますが、手間が掛かります。オンラインモニタリング法も開発されており、例えば濁度、イメージング、蛍光、回折、反射などの光学ベースのパターンを使用しています。インピーダンスセンサーなどの電化学法は、バクテリアの増殖をモニタリングする非常に有望な選択技法ですが、作業電極は媒体と電気的に接触しなければならないため、電極の劣化や非特異的反応が避けられません。これによって精度が低下し誤測定を招く恐れがあります。

このアプリケーションノートでは、C4D(容量結合式非接触導電度検出)を用いて微生物の増殖をオンラインでモニタリングし、従来の電気式や電気化学法が持つ諸問題を解決し、同時にプレートカウント法やPCR法と同等の精度を持ちハイスループット測定を実現する方法を紹介示します。

使用する装置

  • ER818 8チャンネル電導度システム、内訳:
    • ER815 電導度検出器
    • ET128 8組のC4Dヘッドステージ、図 1は8本のバクテリア培養管を各C4Dヘッドステージの中に挿入した画像です。
  • Chart ソフトウェアをインストールしたコンピュータ、または独自の記録ソフトウェア(例、Tera Term、LabVIEW、 C#, WinWedge や HyperACCESS)

測定

適温でバクテリアを細増させると、無電荷または弱電荷の基質(酵母、ペプトン、糖など)が高電荷の終末代謝物(アミノ酸、アルデヒド、ケトン、酸など)に変換され、イオン濃度の変化や媒体の導電度の増加が起こります。この変化をC4Dでモニタリングすることで、バクテリアの増殖プロセスを知ることができます。図 2は電磁信号で励起し記録するC4D電極をピンク色で示したものです。


図 3. LB 培地で増殖する青線(E. coli)と赤線(コントロール)の標準的な増殖曲線;

結果

大腸菌の増殖の特徴

図 3は、LB培地でのE. coli増殖の標準的な増殖曲線を示しています。青い線はLB培地中のE. coliを示し、赤い線はコントロールとして無添加のLB培地を示しています。図では正規化導電度値(NACV)が約45000秒(12.5時間)の培養時間に対してプロットされています。これは、他の方法で得られるものと同等な従来のS字形の曲線です。

大腸生菌の定量化

図 4は、異なる初期培養量(CFUコロニー形成単位)でのE. coliの導電度をプロットしたものです。E. coliの初期培養量の対数値と検出時間との間に直線関係があることを図 5が示しています。これは導電度の応答が直接細胞濃度を表すことではないが、C4Dによる測定法が増殖速度論に基づいて対象の生菌を迅速に定量化するために有効であることを示唆しており、光学測定法やPCR法、カロリーメータや他の電気化学的な測定法と比べても同等である事を示しています。

図 6. 異なるNaCl濃度での増殖曲線

塩分が大腸菌の増殖に及ぼすストレス効果の研究

バクテリアの増殖は、塩分、温度、pHなどの多くの環境要因によって影響を受けることがよくあります。こ種の調査をEBGS法で検証するために、塩分勾配を使用してE. coliの増殖を調べました。図 6はNaClの濃度が1.0、2.0、3.0、および4.0 g/ℓでの各LB培地中でE. coliが示す標準的な増殖曲線を表しています。明らかにNaClの濃度が高いほど最大増殖速度と最大電導度が低くなり、生菌の増殖に対する抑制効果が生じます。この結果は従来の光学法で得られた結果と一致しています。注目すべきことに増殖曲線には興味深い現象があります - 導入期に塩分濃度は殆ど影響を与えないという点です。

参照文献

Online monitoring of bacterial growth with electrical sensor. Xuzhi Zhang, Xiaoyu Jiang, Qianqian Yang, Xiaochun Wang, Yan Zhang, Jun Zhao, Keming Qu, and Chuan Zhao. Anal. Chem., 2018, 90 (10), pp 6006–6011 DOI: 10.1021/acs.analchem.8b01214